2016年4月12日火曜日

初の新築ツタヤ図書館:多賀城市立図書館

東北方面へ旅行する機会があったので多賀城市立図書館に立ち寄ってきたので感想をまとめておく。(訪問日:201643日(日)14時前後)



雨に濡れずにたどり着けない?
 石巻方面からの電車で到着。仙台方向を見て右手が図書館棟、左手反対側が自走式立体駐車場棟になっている。JRのこの区間は立体化されておりプラットホームを降りると改札がある。
 駅広場隣接と電車での通勤通学圏であれば一等地。何故かこの種の施設ならあるはずの雨よけの連絡通路がないのは正直不思議。短い距離とは言え雨にぬれずにたどり着く方法はあるのかもしれないが、すぐわかるような場所にはないのは確か。

特異な構造、特異なBDS設置位置
 図書館棟は3階建でJR高架より半分が図書館、その反対側半分が書店・レンタル・カフェ、コンビニとレストランとなっている。
従来のツタヤ図書館と異なり、書店など営業施設はテナントとして入居している。営業時間も異なるが、図書館と営業施設との間の連絡口は限られており図書館終了後はロープで規制するようになっているとの話は別の方の訪問記で読んだ。
 BDSが導入されているが、図書館・営業施設連絡口には設置されておらず、棟出入り口にのみ設置されている。このため「多賀城市立図書館」来館者として発表されている数値は書店やカフェ、レストランなどの営業施設利用者も含んだ数となっている。純粋な図書館機能評価としての必要な来館者数は把握できていないのではないか。これでは移転前、移転後や他の図書館との比較はできない。

分かりにくい図書館エリア、書店エリアの識別
 図書館エリアはエレベーター1本と中央部の階段で3フロアを行き来する形式となっている。書架は壁面に高層書架が埋め込まれており高い棚は落下防止柵が組み込まれていて、ツタヤ図書館おなじみのものが使われている。
 書店エリアと什器や床材は図書館と同じものが使われており、仕切り箱・板の色(白地黒字なら書店販売用、黒地白字なら図書館)か本の背表紙ラベルの有無で識別する必要があるが、壁一面が書架になっている点は図書館と共通デザイン。棚が物理的に分かれていないのでどのジャンルがどこまであるのか分かり難い。これは慣れたらいいのかもしれないが普通の書店ではこのような困惑を感じたことはない。
 なお図書館と営業施設は壁で仕切られているので、この両者の区分は武雄市図書館より分かりやすくはなっているが、色などのデザインで利用者が直感的に認識するような構図にはなりきれておらず曖昧さはまだまだ残っている。

図書館の背表紙検索性
 館内フロアに置かれた書架は相変わらず口型配置など行われており背表紙検索性を損なっている。但し武雄市図書館のような落下防止柵付き高層書架を並べるような事はされておらず、館内の見通しは改善されている。ただ棚の下の段も普通の書架となっていて、この段に本を入れられた場合探しにくく感じる向きもあるのでは。このあたりは相変わらずですね。
 壁面書架は建物の長辺に沿って設けられておりどこにカテゴリー分類境界があるのか見ていく事でしか把握できない。長崎市立図書館や佐賀市立図書館など普通の大型図書館では書架を整列されており、列単位でカテゴリー割り当てを行っているので、背表紙を見て回る際でも移動量は少なく探す範囲も分かりやすい。検索機の結果で本を探す際も位置把握は難しくない。ツタヤ図書館の写真写り、見栄えの良さ重視のレイアウト、デザインの問題点だと思う。

きちんと掲出・配布されるようになった館内図、改善された検索機レシート
 ツタヤ図書館では従来、館内図を掲示したりする事は避けてきており検索機の検索結果レシートの分かりにくい線画の館内図から探す必要があった。

 武雄市図書館の場合、書架分類としてのジャンル(ライフスタイル分類)の他に、書架に割り当てられた分類も印刷されており、どうレシートを見れば良いのかという所から考えさせられる状態になっていた。詳しい館内図がなく、レシートの「ジャンル」と棚番とその横に記された名称の対応が分からないし(というか本の所在を探す上では関係はない)、6桁の棚番も単なるシリアル番号に過ぎずどこにあるのかヒントにはならない。結局有効な情報は棚番の前後に並記された「1F 販売/料理/旅行/人文/児童書/実用書 棚番:800163 (A63)料理」といった棚名称、棚番号と所在を示す館内線画だけといってよかった。(「1F 販売…」表記はジャンルと誤認しやすく混乱の元になる事もあった)

 多賀城市立図書館では棚番と棚名称の文字は他より大きなフォントで印刷されるようになった事で本を探す際に何を見れば良いのか明確になった。更に館内MAPが印刷されたものが配布されるようになったので改善されている。


(左)武雄市図書館・(右)多賀城市立図書館
検索機レシート

 ただ少し苦言を呈させてもらうと、館内階段前にペイントされた館内図と配布されている館内図では微妙に表記が異なるのは良くない。例えば「歴史・郷土」は階段前ペイントでは「歴史」「郷土」だが配布されている館内図では「世界史」「日本史」「伝記」「郷土」となっていて中ジャンルで記されている。微妙な違いだがジャンル構造を知らない利用者を混乱させる要因にはなり得るので細かく表記する場合でも大ジャンルを並記するなど改善されると良いと思う。

新着資料棚はどこにあるのか
 武雄市図書館では新着資料棚の所在が分かりにくかったのですが(総合カウンター近くの口型書架の一角にある。エントランスからはちょうど死角になっている)、多賀城市立図書館内を歩いているあいだ気づく事はなかった。普通の図書館だと新着棚はカウンター前、エントランスからも目につくところにあり、専用の書架を置いている。貸出中の資料が分かるように表紙や背表紙のコピーを貼ったりと工夫される所もよく見ますが、ツタヤ図書館では探さないと見つけられないのが通例となってきている。
初めて行く図書館ではどのような資料を購入しているかすぐ見ていますし(資料費の状況把握に役立つ)、地元利用者にしても新しく来た本は気になる所じゃないでしょうか。
私の勘違い、見落としならいいのですが……。

巨大な移動階段
2Fキャットウォーク部の高層書架では、2m付近のところで移動階段のレールが取り付けられており、その上の棚の背表紙が半分以上隠れる。普通の落下防止柵でも背表紙の一部が隠れるが度合いが異なる。移動階段も構造をコンパクトにするためか階段が交互にしかないものが置かれている。キャットウォークを塞ぐ大きさのため、閉館後しか使えないのではないか。閉館後でも安全考えると障害物がないか確認する人員も必要で最低2名以上要すると思われる。

修理が行き届いてない蔵書
 文庫コーナーや郷土史コーナーの本で表紙などの傷みが進行しているものが並んでいたのは残念。長期休館中に修理されるべきものではないか。新館移転準備は旧館閉館前から準備されていたと思うのですが、その中で対処が後回しになった理由、開架に出してある理由が分からない。傷んでいる資料が開架にあっていいと思う人はいないと思う。この点は残念の一言に尽きる。早急に善処して欲しいところです。

天窓まで付けて太陽光を取り入れる事の是非
 図書館キャットウォーク/書店側の吹き抜け天井は明かり取りの天窓が設けられている。このおかげで書店側は太陽光の明るさが取り入れられているが、3F図書館キャットウォーク(児童書が格納されている実質閉架書架)に明かりが届く。夏場に備えて半透過のロールカーテンが組み込まれているが、遮光性が十分なようには見えず資料を傷める事にならないのか気になる。
 吹き抜け構造のため書店側の空間が広い訳ですが、夏・冬の空調への影響も気になるところ。武雄市図書館のようなシーリング・ファンが必要なのではないか気になります。

児童書コーナーから透けて見えるツタヤ図書館の思想
 児童書コーナーは1F奥に図書館と営業施設エリアをつなげるような形で設けられている。一般的な基礎自治体の図書館では児童書に注力されており23割の資料が児童書という事も珍しくない。多賀城市立図書館も移転前の建物ではこのような面積比で占有する児童書コーナーがあったのは見ているのですが、新図書館では大人向けの資料、雑誌が1F3Fフロアを専有しており、1F奥の空きスペースに児童書コーナーを当てたように見えてしまう。
 児童書コーナーの面積が不足しているためなのか3Fキャットウォークの高層書架は全て児童書に当てられていたように見えた。これら資料を活かす事を優先するのであれば1フロアの過半を児童書エリアにするという選択肢もあったのではないか。そうすれば3Fキャットウォークに児童書を置く必要はなかったはず。
 お話コーナーも子供達が物語に集中するというよりそういう子供達を図書館側にいる大人が見る事を優先されているような設計になっており、きちんと壁を設けて読み聞かせに必要な音環境を整える事も考えるべき事ではないだろうか。武雄市図書館といい多賀城市立図書館といいもう少しきちんと児童書コーナーに注力されるべきものだったと思う。
 地元紙報道によると貸出の4割が児童書だという。春休みに入っていてという事は大きいと思いますが、利用実態としては重視すべき数字が出ている。その一方で図書館の運営方針や設計がこれに見合っていない。構造起因の問題は運用でカバーしきれる問題でもないが、児童書の資料購入強化など出来るだけ配慮して欲しいと思う。
 3館目でもまだこのような設計をしてしまうあたり、経験の反映は為されてないようでちょっと酷いんじゃないかという感想を持たざるを得ない。

多賀城市立図書館ジャンル
 NDC書架分類の図書館は09の類目表で配置(番号順もあれば、ニーズなど勘案して関係なく配置されている場合もある)した上で網目表、要目表の番号順で配架されている所が多い。
 ツタヤ図書館の場合は増田氏のNDC配架批判から書店配架の発想を持ち込んでジャンル分類(ライフスタイル分類とも)が導入されている。
 NDCで配架されている場合、書誌分類と配架分類は基本イコールとなる。本の配架自体が一種のインデックスと見立てられている。またNDC自体改訂が続けられており最新版は201412月発行の新訂10版となっている。(どの版を図書館が採用しているかはWebOPACなどで明示されている)
NDCは全国統一された規格として機能している。分類のされ方で図書館ごとで差異が生じる事があるが(情報処理関係書をどう分類するかは典型例)大きく異なる訳ではないので、どのジャンルを見ていくか分かればNDCを使った検索や書架を見て本を探す事が可能となっている。

 ツタヤ図書館のジャンル分類は現状3館とも異なるコード体系を持っている事はkeikuma氏などの調査で判明している。これは各図書館のWebOPACの検索条件設定画面からでも確認が出来る。
増田氏はNDCについて著書やインタビューで批判しているが、書店員がやるような工夫が出来ない排架だという観点で批判されている。ただ、それだけなら書誌分類にジャンルを設けなくても書架にジャンルを割り振るだけで良かったはずだしツタヤ図書館現場の実運用も見ている限りはそれに近い。

 例えば多賀城市立図書館2F文学関係の棚で「宮城を題材にした作品」「宮城ゆかりの文学者」「多賀城ゆかりの文学」が設けられているが、これらは書誌分類上は存在せず書架分類としてのみ機能している。
(他の館だとこれらは郷土資料のコーナーに置かれる事が多い。3F歴史・郷土書架にも「文学」は設けられており、こちらで展開しても良かったのではないか。なお複本があれば1冊は「宮城ゆかりの文学者」、もう1冊は文学の該当ジャンルの書架に入れられており、一箇所に集中するような愚は避けられている)

 正直、増田氏の誤解が自治体やツタヤ図書館の現場に無用な負担を強いているように見える。今すぐ書誌上のジャンル分類止めても何も問題はないように見えますがどうでしょうか。

 ジャンル分類のもう一つの問題としては誤った排架の他に複雑で見通しの悪いレイアウトという部分にもあったと思う。既存改修で整列した書架配置をとっていたのにわざわざ壁面書架導入や他の部屋を壊して書架を入れた武雄市図書館に比べて初めて専用館として設計されたおかげなのか軽減はされている。
よくなった分、書架を並べて本を入れて仕切り板を入れていればいいというCCCの図書館での資料検索性に対する考えがより明確にもなっている。
 CCCの考える料理や旅行、デザイン本を並べていれば図書館になるという発想、これらジャンルだけの専門図書館なら成り立つかもしれない。現実の基礎自治体の図書館は技術書や歴史など様々な資料を収集して読書以外の利用にも対応している。これらは背表紙を見て必要な資料を探して調べるという使い方もある訳ですが、ツタヤ図書館では、このような探し方にはあまり向いていない。この事を再確認できた。

「宮城の文学」「歴史」「史都多賀城」書架カテゴリーと書誌カテゴリーの対応分析を別途まとめていますので、よければご覧下さい。

1F 蔦屋書店
 エントランス付近の平台は他の直営蔦屋書店と変わらず説明抜きで平積みや面陳がされているだけになっていて雑誌の表紙をインテリアとして扱っているようにしか見えない。
 この書店は地場フランチャイジーとの合弁会社が運営に当たるという初の事例になっているが、書店運営においてフランチャイジー独自のノウハウで運営される訳ではなく、あくまで従来の延長上の取り組み方で対応されているように見える。

 こちらをお読みの方で岩手県まで足を伸ばされるようであれば、さわや書店に立ち寄られる事をおすすめします。担当書店員の熱いPOPで本の提案が店内随所で見られて新しい発見もあると思います。正直、前日さわや書店に行っていなかったら、気が滅入って落ち込んでいたと思う。

 レンタルコーナーは2階に展開。武雄市図書館がまるで蘭学館を無くすために作られたようにしか見えなかったが、こちらは実質専用で設計された事もあってか広々としている。またこれぐらい面積がないとレンタル店としては機能しないのではないか。

1F スターバックス 多賀城市立図書館店
 スターバックスは大盛況。この棟で待ち行列が出来ていたのはスタバとTカード作成の2つ。マクドナルドも30年ぐらい昔はこんな扱いだったなと思い出す。

3F レストラン PUBLIC HOUSE
 スタバほどではないですが賑わってました。店内へのアクセス、一見エレベーターしかないと思ったのですが、階段どこにあるのかは未確認。(非常階段はあるはずでしょうから)

1F ファミマ!
 今回は店内入らず。書店側エントランスからではどこにあるかよく分からなかった。



デザイン性よりも機能性を
 既存の複合施設を無理やり改装した武雄市図書館に比べれば改善された点は多いのだろうと思う。ただ、CCCこだわりのジャンル分類の優位性が感じられるような提案力のある陳列をされている訳でもなく、代官山由来の内装も本を提案する事よりインテリアとして見せる事を重視するものであって図書館にも書店にも向いていない。(個人の書斎なら向いていると思う)
このような複合施設を作るにしても左右で分けるのではなく普通にフロア毎に分けた方がわかりやすいレイアウトになったのではないか。図書館にしろ書店にしろデザイン性よりも機能性を優先すべきではないだろうか。その方が「使える」施設だと思う。

追記
 館内に無料ロッカーがありますが普通のオフィスの個人ロッカー什器が置かれており鍵もあまり強力なものとは言いかねます。有料コインロッカーは駅構内側にあるので、しっかりしたロッカーに荷物を預けたい場合は改札を出る前にどうぞ。